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榎本裕一個展

2005exhibitions

2006年7月の展覧会として、榎本裕一展「風景」を開催いたしました。
2003年より石川県内の漆器の産地であります金沢市や加賀市山中で漆芸と木工の修業をつんだ榎本の大阪での初の個展となりました。 女子美術大学大学院を1998年に修了するまで洋画を学んでいた榎本は、近年キャンバスの代わりに挽物(木地)を使い、 漆やウレタン塗料を用いて絵画表現を試みています。
その形態は器の形をしており漆器を連想させますが、漆器には見られない発色と豊かな色彩により固有の作品をつくりだしてきました。 2005年の東京での個展では花をテーマに色とりどりの美しい作品を展示しました。
今回の個展では、ウレタン塗装した挽物数十点を壁一面に展示するインスタレーション作品と、 空をイメージさせる作品2点を展示しました。


作家コメント
日常のふとした瞬間、色の美しさに驚かされることがあります。
それが街角の花壇であったり、夕焼けの空であったり。
私の作品からその驚きを共感してもらえると嬉しいです。
榎本裕一


「樹を見て森を知る」
葉や花びらを見ただけでその植物名を言い当てる人がいる。
植物にとって葉や花びらは、その種を決定付けるだけの特徴をもっているということであろうか。
色や形、質感などさまざまな要素が複雑に絡み合って存在する「植物」という自然の造形にとって、 とりわけ色彩やその濃度、グラデーションといった色に関する要素はその特徴を顕著に示しているように思われる。
榎本裕一の作品を見てまず感じたことは、植物の色彩のもつ普遍的な美しさを表現することにより、 植物の表情を説明的ではなく感覚的にうったえているということである。
たとえば、中心が白くそのまわりにあざやかな紫色のグラデーションが広がっている作品は、 実際に花弁を手元に置いて制作をすすめるというが、写実という点では花も葉も茎もなく、 まったく植物の姿が描かれていない色面として捉えられる。
しかし、それがまぎれもなく朝顔の花であることが、鑑賞者には無理なく理解されるのである。
抽象的な色彩による表現でありながら、植物のもつさまざまなイメージを消化して再構成された「花の肖像画」は、 実際の花よりもわれわれの想像を掻き立てる存在なのである。
榎本は、キャンバスに油彩で作品制作を行っていた。
しかし、キャンバス地や油絵具という支持体と素材が作風にマッチしないため、円形の板をフリスビーのような円盤形に仕上げ、 その上にウレタン塗装を重ねて凸面や凹面のグラデーションにより花を表現してきた。
その後2003年から石川県で漆芸やロクロ挽きを学び、挽物に漆やウレタン塗料を用いて花をテーマに絵画表現を行ってきている。
そんな彼にとって、丸い木地はあくまでも絵の支持体であり、かなりの工芸技術を習得しながら工芸作品を手掛けないのは、 彼の作品が実用を求めるものではなく、さまざまな道具が年月を経て獲得した機能上のフォルムの美しさを欲したからである。
まさに、合理的な機能美をそなえた植物と、用の美として洗練rとされた器の美を絵画に応用しているといえるのだ。
大阪での初個展となる今回は、「風景」をテーマにウレタン塗装による挽物数十点を壁面に配置するインスタレーションと、 「空」を連想させる作品で構成されている。光沢と透明感をもった挽物の集積による色の風景は、われわれの記憶の風景を呼び覚まし、軽やかでクールなフロー ラルな空気を伝えてくるのである。 花の色は花そのものであり、花の咲く風景でもある。時として部分は全体を包括する。
八木宏昌(学芸員)